税務相談室
※法改正により、内容が変更になっている場合があります。
平成21年4月15日発行

遺産分割のやり直し

(第32号)
相続手続の中で最も手間取る部分は遺産の分割協議です。ようやく話し合いがつき、遺産分割協議書を作成したにもかかわらず、あとになってこれに変更が加えられることがあります。いわゆる「遺産分割のやり直し」です。ところが、税の世界ではこれがとんでもない問題を引き起こすことがあります。今回はある事例を舞台にして税の考え方を紹介します。

Q.相続争いの決着

私たち兄弟二人は、父親から賃貸マンションを相続し、これを共有することにしました。ところが、共有とは名ばかりで、その後7年間、相続登記はされないまま、兄はこの賃貸マンションを専属的に支配し、そこから生ずる全ての利益を独占してきました。
そこで、私は弁護士を介して調停の申し立てを行い、協議を重ねた結果、兄はマンションを単独で取得する代わりに私の相続分について代償金を支払うということで話し合いは決着しました。
兄弟間のしこりはこれでようやく解決したのですが、気になるのは、ここまでの過程に内容の異なる二つの遺産分割協議書を作成したことです。 ひとつは相続税の申告に際して作成したもので、マンションを共有で相続することを内容としております。
そして、もうひとつは、今回の相続登記に際して作成したもので、兄がすべてを相続することを内容としたものです。
この点について税務上問題となることはありませんでしょうか。

A.税の考え方

事例では兄が遺産を単独で取得する代りに弟に代償金を支払うことで決着しました。このような遺産分割のやり方を代償分割といいます。当事者としては、「これで一件落着!」というお気持ちでしょうが、税の見方はこれまでの経緯を二つに分けて課税関係を考えます。
ひとつは最初の遺産分割協議書が作成されたとき、そのときは分割した遺産の額に応じて相続税が課されます。この件については、兄弟は7年前に納税もすんでいます。
そして次は、遺産分割のやり直しを行ったときで、そのときは(弟が)相続によって取得した財産を(兄に)処分(売却)したと考えます。したがって、その売却益に対して新たに所得税が課されます。
さらに、このとき兄が支払った代償金の額が世間相場に比べてあまりにも安いものであれば、その安い部分については弟から兄に対して贈与があったもとして(兄に)贈与税が課されます。
それでは、相続問題がこのようなトラブルにならずに、最初から代償分割とすることで話し合いがついていたらどうなっていたでしょう。
弟については兄からもらった代償金に、兄についてはマンションの価額から弟に支払った代償金の額を差し引いた額に相続税が課されるだけで、つまり、1回の納税で済んだはずです。
事例の場合、当初作成した遺産分割協議書はすでに相続税の申告書とともに税務署に提出されておりますので、これと今回の相続登記を照合すれば遺産分割のやり直しがあったことはすぐに表面化することになります。
相続争いの結末がここまで波及してしまうと、それはあまりにも大きな痛手になります。そのようなことにならないよう、遺産分割協議書の押印に当っては慎重に対処する必要があるのではないかと思います。



ハッピーハウス税務相談室
税理士 坂西 史也
 
目次へ戻る>>


福岡の地主さんからもご満足の声を多数頂いております。
建てるなら 借りるなら

このページのトップへ