遺品を整理していたら子供名義の預金通帳が出てきました。中を開くと、子供の幼少時から二十年間にわたって毎年百万円づつ積み立てられています。遺産分割協議ではこの預金の存在が一旦は話題になりましたが、結局は故人の遺志を尊重して名義人である長男がこれを受け取ることになりました。
それでは父が遺したこの二千万円は税務上どう取り扱われるのでしょう。父親は毎年百万円のお金を自分の預金から子供名義の預金に移しました。もし、これが税務上も正当な贈与として認められれば、この贈与は贈与税の免税枠(現行・年一人当り百十万円)の範囲内ですから、その累積額である二千万円については贈与税がかかりません。 ただし、長男が父親の財産を相続したときには、亡くなる前の三年間に受けた贈与の額は税務上相続財産とみなされます(これを「みなし相続財産」といいます。)ので、結果として三百万円については相続税が課されることになります。 一方、この預金を相続によって取得した財産とみるならば、長男の幼少時から積み立てられた全額(二千万円)が相続税の課税の対象になります。
このように、父親が生前にした贈与が税務上も贈与として認められれば良いのですが、そうでなければ、父親の心遣いは水泡に帰し、長男が負担すべき相続税の額は途端に重くなります。 それでは、その分かれ目はどこにあるのでしょう。それは、父親の生前にこの預金が誰によって管理されていたかによって分かれます。 もし、この預金を父親が管理していたとすれば、この預金は子供の名義を借りた父親の預金(この種の預金を「名義預金」といいます。)ということになり、父親がこの預金に自分のお金を移しても、それは同じ器の中で自分のお金の置き場所を移動したにすぎません。ここで贈与を主張するなら、せめて、預金通帳とその届出印を子供に託し、子供がその預金を自由に引出し、使える状態にしておかなければなりません。
贈与税の免税枠に着目した相続税対策は、手軽な上に、複数の子や孫を対象に長期的に実施すればかなりの効果を上げられるので、広く利用されています。ところが、税務調査の現場では、故人が遺した「子や孫に贈与するつもり」の、あるいは「贈与したつもり」の名義預金がかなりの頻度で是正されています。そこで次回は、生前贈与を行う際の具体的な注意点について解説したいと思います。