税務相談室
※法改正により、内容が変更になっている場合があります。
平成24年2月15日発行

相続税対策が水の泡(2)

(第49号)

前号のあらすじ

父親が生前にコツコツと貯めてくれた子供名義の預金通帳、相続税の申告に際して、これを父親の生前に「贈与を受けた財産」として申告の対象から外すのか、それとも、父親が遺した「相続財産」として申告しなければならないものなのか、名義人である子供としては迷うところです。前号では、生前においてその預金が誰によって管理されていたかによって、判断が分かれることを述べました。今回は、その生前における管理の状況がどのような過程を経て明かにされるのか、税務調査の現場を想定して演出します。

どうして生前の姿が見えるの?

調査の手始めは、父親と同居していた相続人に「お父様が生前に使用していた印鑑を出してください。」とお願いします。相続人は「一体何のために?」と首をかしげながらも、おそるおそる、いくつかの印鑑を提示します。そこで私は、まずはカラ印を、次に、たっぷりと朱肉をつけてその鮮明な印影をとります。カラ印の印影をみれば、その印鑑が最近使われたものなのかどうかが分かります。父親になりすまして(遺産分割協議書に搭載しないまま)遺産を引き出した人がいるかもしれません。
次に私は、カバンから書類を取りだし、そこに押されている印影と、先ほど鮮明に押した印影を照合します。ここで私が取り出した書類は、調査に先立って父親の取引銀行から取り寄せた家族名義の預貯金のリストと、その届出印の写しです。
もし、ここで双方の印影が一致すれば、その印鑑を手にして取引窓口に立っている父親の姿が見えてきます。さらに「遠くに嫁いでいるはずの娘さんの預金がどうしてここ(父親の取引銀行)にあるのですか?」とか、「この口座とあの口座はそれぞれ名義人が違っているのに、日付や入出金額が互いにつながっていますね。」とか、「この筆跡とあの筆跡は同じようですが、一体誰の筆跡ですか?」とか、・・・ここまで問い詰められると「実は・・・父の・・・」と答えざるを得ません。

申告漏れが多い名義預金

このように、父親が生前にした贈与が税務上も贈与として認められれば良いのですが、そうでなければ、父親の心遣いは水泡に帰し、長男が負担すべき相続税の額は途端に重くなります。
それでは、その分かれ目はどこにあるのでしょう。それは、父親の生前にこの預金が誰によって管理されていたかによって分かれます。
もし、この預金を父親が管理していたとすれば、この預金は子供の名義を借りた父親の預金(この種の預金を「名義預金」といいます。)ということになり、父親がこの預金に自分のお金を移しても、それは同じ器の中で自分のお金の置き場所を移動したにすぎません。ここで贈与を主張するなら、せめて、預金通帳とその届出印を子供に託し、子供がその預金を自由に引出し、使える状態にしておかなければなりません。

失敗しない生前贈与

税理士がお客様に対してこのような詰問をすることはありませんが、税務調査ではこれに似た問答が幾多となく繰り返されています。
国税庁が公表した「相続税の調査の状況」を見ても、申告漏れが指摘された相続財産のうち、その三分の一が家族名義を含む預貯金等であったことが明らかにされています。
一方、先に逝く者の思いとして「できるだけ目減りしない形で子孫に遺したい。」そう思うのは人として当然の人情であり、遺族の思いとしては「父親がその子に贈与するつもりの、あるいは、贈与したつもりのものであったことが分かれば、できるだけその遺志に従いたい。」そう思うのも当然の人情です。
そこで次回は、トラブルを招かない賢い生前贈与の進め方について解説します。
ここでお詫びします。
前回お約束した「生前贈与の対処策」については紙面の都合で次号に先送りしました。掲載を急がれる方は、ご遠慮なく相談室にお申し出ください。ご質問やご相談をお待ちしております




ハッピーハウス税務相談室
税理士 坂西 史也
 
目次へ戻る>>


福岡の地主さんからもご満足の声を多数頂いております。
建てるなら 借りるなら

このページのトップへ