遺産目録の封を開いて驚いた。「父の入院中に多額の預金が引き出されていた。」「ビルの名義人がいつの間にか変わっていた。」など…相談室ではときとしてそんな嘆きを聞くことがある。そこで今回は、隠された遺産と生前贈与について考えてみよう。
勝手に持ち出された財産は相続人全員の共有財産としてその返還を求めることができる。一方、生前に贈与された財産については返還を求めることはできないが、遺産分割に際して「特別受益」としてその分、相続の額は減らされる。このように、生前の贈与と死を条件とする贈与(相続)はバランスがとられているのだ。
相続税の申告に際しては相続人全員が同一書面に署名押印するので、勝手に財産を持ち出した相続人は申告をためらうだろう。そんな心理を読んで、税務調査では、亡くなった人の介護期間や療養中などに動かされた財産の行方を徹底して追跡する。もちろん、その先に隠れた遺産があることを想定してのことだ。
亡くなる前の三年間に行われた贈与はなかったものとみなされ、相続財産として課税される。また、将来のためにと子や孫の名義で積み立てた預貯金も、それが亡くなった人の財産を財源とし、かつ、亡くなった人の管理下に置かれていた事実が明らかになれば、「子や孫の名義を借りた亡くなった人の財産(名義預金)」として相続財産の課税対象に加えられる。
税務調査で「持ち出された財産」や「名義預金」の存在が明らかになれば、これらも遺産分割の対象に加えられる可能性はある。その場合、「持ち出された財産」はやむを得ないとしても、「名義預金」については故人の希望通りに名義人になった子や孫に帰属させてやるのが人情ではないかと思う。