あるオーナーは、亡くなる直前に先祖伝来の土地を売却して借金を一掃していた。遺族に対する思いやりがそうさせたのだろうが、税金の面から考えると、それでよかったのだろうか。
生前に土地を売却すると、相続財産は土地から売却代金に置き換わる。不動産の相続税評価額は時価(換金額)より低く抑えられているのが普通なので、土地を売却すると、財産の評価額は上がり、税負担も増す可能性が高い。
この事例では売却代金を借金の返済に充てているので、それが原因で税負担が増えたと考える人がいるかもしれない。 ところが、評価額が上がったのは土地を換金したことが原因であり、借金を返済したことは結果に過ぎないのだ。 これに似た思い違いを例に挙げると、お金があるにも関わらず相続税対策と称して必要以上に借金を抱える人がいる。借金を返しても、これと呼応する形で、手元のお金も減るので、双方を差引すると正味財産は増えもしないし、減りもしない。 借金を抱えていても相続税対策にならないとすれば、金利負担を軽減するために、余分な借金を減らした方が得策だ。
土地を売却すると、売却益(譲渡所得)に対して所得税と住民税がかかる。 相続人が相続財産を売却した場合は、譲渡所得の計算に際して特例が設けられており、その売却した財産を取得するために支払った相続税を必要経費(取得費)に算入することができる。 この特例が適用されるのは相続税を支払った相続人に限られるので、生前に財産を処分したオーナーには適用されない。
以上のとおり、生前に財産を換金すると、相続税と所得税の両面で不利になる。 そこで、次のような遺言を作っておけばいいのではないだろうか。 「私の死後、借金の返済が重いと感じたら、この土地を売却して借金の返済に充てなさい。」と・・・。